現代のビジネスにおいて、安全で効率的なネットワークの構築は企業の生命線です。私はこれまで多くのITインフラ構築を見てきましたが、拠点間を繋ぐ技術としてVPNの理解は欠かせません。
テレワークの普及やクラウド利用の拡大により、最適なネットワーク選びが企業の競争力を左右します。本記事では、代表的な二つの手法の違いと、自社に最適な選び方を詳しく解説します。
企業ネットワークにおけるVPNの役割と歴史

企業ネットワークは、専用線からVPNへと大きく進化を遂げました。この進化の背景には、コスト削減と柔軟な働き方への対応という強いニーズがあります。
VPNが求められる背景
かつての主流であった専用線は、高い安全性と通信品質を誇る反面、導入費用が非常に高額でした。専用の物理回線を独占するため、柔軟な構成変更も困難という課題がありました。
そこで登場したのが、仮想的な専用線を構築するVPN技術です。共用ネットワークを利用しながらも、暗号化などの技術で安全な通信経路を確立します。
インターネットVPNとIP-VPNの基本概念
VPNには大きく分けて2つの種類が存在します。一つは公衆網を利用するもの、もう一つは通信事業者の閉域網を利用するものです。
この2つの技術はどちらもネットワーク層で動作しますが、インフラや制御の仕組みが根本的に異なります。以下の表で主な違いを比較します。
| 比較項目 | インターネットVPN | IP-VPN |
|---|---|---|
| 利用インフラ | 公衆インターネット網 | 事業者専用の閉域IP網 |
| 通信階層 | レイヤ3(IPレベル) | レイヤ3(MPLSラベルによる制御) |
| 経路の性質 | 不特定多数と共有(オープン) | 契約者のみが利用(閉域) |
| セキュリティ | 暗号化技術に依存 | インフラの閉域性に依存 |
インターネットVPNの仕組みと深層技術

インターネットVPNは、普段私たちが利用している公衆インターネット上に仮想的なトンネルを作り出します。コストを抑えつつ一定の安全性を確保できる手法です。
トンネリングと暗号化の役割
公共のネットワークを通るため、第三者からデータを隠すトンネリングと暗号化が欠かせません。この仕組みを実現する代表的な規格がIPsecです。
IPsecはデータの完全性を保証し、情報の秘匿性を守ります。送信元と送信先のプライベートIPアドレスも外部から見えないようにカプセル化を行います。
運用上の制約と品質の課題
インターネットVPNの最大の弱点は、通信品質が保証されないベストエフォート型である点です。世界中のルーターを経由するため、経路の混雑状況に大きく左右されます。
夜間帯などは通信量が増大し、Web会議の音声途切れやシステムへのアクセス遅延が発生しやすくなります。強力な暗号化処理がルーターに負荷をかけ、通信速度が低下する問題も無視できません。
IP-VPNが提供する高い信頼性とアーキテクチャ

IP-VPNは、通信事業者が独自に管理する閉域網を利用します。インターネットから完全に切り離された空間で通信するため、極めて高い安全性を誇ります。
MPLS技術によるルーティング
IP-VPNの裏側では、MPLSと呼ばれる高度な転送技術が使われています。パケットに目印となるラベルを付与し、そのラベルを見るだけで高速にデータを転送します。
この技術により、通信事業者内で顧客ごとに独立した仮想ルーターが稼働します。企業間でIPアドレスが重複していても、トラフィックが混ざる心配はありません。
稼働率と品質保証の重要性
IP-VPNの大きな強みは、通信品質の予測ができることです。通信事業者は、遅延やパケット損失率についてサービスレベル合意(SLA)を提示しています。
プランによっては年間故障時間が数十秒未満という驚異的な信頼性を実現します。金融機関の決済システムや製造ラインなど、一瞬の停止も許されない業務に最適です。
中間的な選択肢|エントリーVPNと広域イーサネット

ネットワーク設計では、要件に応じて多様な選択肢を検討すべきです。費用と性能のバランスを取るための別の技術も紹介します。
経済性に優れたエントリーVPN
エントリーVPNは、アクセス回線に安価なブロードバンド回線を利用し、事業者の閉域網へ接続する方式です。光回線などを活用して導入費用を大幅に抑えられます。
網内は安全な閉域網ですが、アクセス部分はベストエフォート型となります。多数の店舗を展開する小売業などで、非常に費用対効果の高い選択肢となります。
自由度を極めた広域イーサネット
広域イーサネットは、データリンク層で拠点間を接続する技術です。IPプロトコルに縛られず、独自の制御パケットも透過的に伝送できます。
企業側でネットワークの経路設計を自由にコントロールできます。複数の拠点をまるで同じフロアにあるかのように扱う柔軟な運用が実現します。
費用構造の徹底比較とネットワークの選び方

技術的な特徴を理解した上で、自社の予算に合ったサービスを選ぶ必要があります。各サービスの一般的な料金相場と選定基準を解説します。
初期費用と月額料金の相場
導入費用と運用費用は、選ぶ回線種別によって大きく異なります。以下の表に現代の市場における一般的な料金相場をまとめました。
| サービス種別 | 初期費用(1拠点) | 月額料金(1拠点) | 特長 |
|---|---|---|---|
| インターネットVPN | 2万円 〜 5万円 | 3千円 〜 2万円 | 既存回線を流用でき安価 |
| エントリーVPN | 5千円 〜 5万円 | 5千円 〜 2万円 | 安価な光回線がベース |
| IP-VPN | 3万円 〜 10万円 | 5千円 〜 5万円 | 品質と安全性への対価 |
| 専用線 | 10万円 〜 50万円 | 10万円 〜 数百万円 | 完全な占有型インフラ |
2026年には一部の通信サービスで料金改定が予定されており、ネットワーク構成の見直しを迫られる企業も増えています。保守や運用を丸ごと任せるマネージドサービスの需要も高まっています。
自社に最適なネットワークの選び方
結論として、業務の重要度や扱うデータ量に応じてサービスを使い分けるのが最も賢い戦略です。私は、複数の回線を組み合わせるハイブリッド構成を強く推奨します。
基幹システムや重要拠点には高品質なIP-VPNを配置します。小規模な営業所やリモートワークの従業員には、費用を抑えたインターネットVPNを割り当てると良いでしょう。
まとめ|ビジネスを支える次世代ネットワーク戦略

インターネットVPNとIP-VPNの違いを正しく理解することは、企業の経営判断そのものです。自社のビジネスが直面するリスクを把握し、必要な品質に対して適切な投資を行いましょう。
現在はSD-WANのように、ソフトウェアで複数の回線を自動制御する技術も普及しています。モバイル回線を組み合わせた柔軟な構成も当たり前の時代になりました。
特定の技術に固執せず、状況の変化に強いしなやかなネットワークインフラを構築してください。


